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人形の将来..石黒正美過ぎゆく時の流れの中で、時代を越え世代を越えて今私達の手もとにある古典人形達、震災・戦災、そして、人の喜び悲しみ苦しみをだまって見つめてきた瞳、古典の人形達を見つめていると、今から何百年も前の時代の賑わいが聞こえてくるようです。 「お人形さん」はどこの家庭にも必ず一つや二つはあると思います。しかし一般的には、他の装飾品・玩具に比べ皆さんの関心度は薄いのではないでしょうか。「人形」この言葉をストレートに解釈すれば私達人間の形です。もう一度家の中にあるお人形さん達を手にとってみていただけますか。人形の目と私達の目の高さを合わせてみつめあって下さい。どうですか、お人形さんは良いお顔をしていますか。 人形は私達の心の鏡です。人形の顔を見て自分の心に納得したり、反省したりすると、人形と私達の関わる世界は広がります。そして何よりも、可愛らしいしきれいです。どうか素敵な人形に出会って下さい。素敵な人、物との出会いは私達の財産になります。又私達を育ててくれます。 日本は今、美術品が溢れ、感性を育てる土壌はたっぷりと豊かになっております。私達大人社会に「ゆとり」の時間ができてきたのです。そこで次代を担う子供たちに、自分の国の文化、伝統をわかりやすく正確に語り継いでいきたいものです。これからの子供たちは、今以上に国際感覚を身につけることを要求されると思います。その為にも幼子の時に、しっかりと母国の伝統、そして人間としての基礎教育を身につけて、ノーマルな大人になって欲しいと思います。時代の生き証人である、明治生まれの方々が幸いにもご健在な間に、日本の伝統文化を立て直したいものです。 そこで、人形の中の「雛祭」について考えてみましょう。 冬の寒さからやわらかな春の陽射しに移ろいゆく季節、桃酒を酌み交わし我が子の無事な成長を願う女の子の優雅な祭りが「雛祭」です。「初節句」というと皆さんはどのように感じられますか。慣習だからという動機で雛人形をお買い求めになりますか。多くの方々はそうでしょう。しかし大切な事がもう一つあります。「雛祭は教育なのです」。子供たちの感性の一番柔軟な時に、美しい物を見せる、理屈ではなく女の子達には雅やかな物を愛でる、三つ子の魂百までも優しい感性が育って欲しいですね・・・・。
雛人形は十五体あります。ご存知でしたか。男の人形が十一体、女の人形が四体、この様に一体一体数えることで数の認識、男女の違い等が覚えられます。そして一番下の段に三人仕丁(しちょう)。仕丁とは聞きなれない言葉ですが、辞書には、「江戸時代、御台所で興舁(こしかき)(興=乗り物=をかつぐ事)その他の事に使役した者」とあります。三人の男の人が、泣く・笑う・怒る表情をしており、この人間にとって基本になる感情を実にリアルに表現している人形達です。ここで最初の情操教育が始まります。泣く事、どうして泣いているの・・・と問いかける。笑う事、楽しいから嬉しいから笑う。怒る事、自分のままにならない不平不満から怒るというように、人間の喜怒哀楽、感情の違いの認識等ができるのです。 次に取り扱いのルールを教えるのです。「良いものだから触ってはダメ」ではなく、触ってよい場所、お人形さんでいえば胴体の部分は触れて良い場所です。お顔の部分は人間の手の脂がつくので汚れますからだめですと云うように、一つ一つ種々のルールを見せて、聞かせて、触れさせてみる。私達にとっても大変根気のいる事です。そうしてこのゆとりの時間に子供たちの感性・情操が芽吹いてゆくのではないでしょうか。 基本的教育が足りている子と足りていない子では、集団生活の場に入って協調性・忍耐力等に差がでてきます。この事は男女を問わず大人になってゆく過程で大変重要な事です。又、雛祭を子供たちと共有する時間が、大人達と子供たちのコミュニケーションの場にもなります。子供たちが毎年毎年自分の成長した目の高さでお人形さん達に会うのが楽しみになるような、そんな雛祭にしたいものです。 創る側、売る側、そして雛人形をお買い求めいただける皆様方が三者一体となって、その相乗効果により、より良い文化を、より良い人形を次の世代にしっかり伝承してゆきたいものです。 そして美しい物を愛せるぜいたくな「遊び心」を持ち続けたいものです。
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